第二十二話

 土曜の夕食の時にはわざと魚釣りの話ばかりをして、明日は朝早いからとドリフも見ないで二人ともそれぞれの部屋に戻った。

皆が寝静まるまでの間、博史は布団の中でずっと寝たふりをしていた。
満腹中枢が眠気を誘い、うつらうつらしてしまって辛かったが今夜だけは眠るわけにはいかない。

もうダメだと思っては起き上がり何度も便所に行って窓を開け冷気を浴びた。

 午前一時、寝静まった部屋で博史はわざと咳払いをしてみた。同部屋の二人はピクリとも動かない。

今だ...。

博史はそっと布団を抜けだしトイレに向かう。ジャンパーのポケットには小さな懐中電灯を潜ませてある。一旦トイレに入り外の様子を伺うため窓を開けてみた。

ヒュウゥ~...。

夜の冷気と一緒に窓から細かい白いものがたくさん吹き混んできた。

「風花だ...。」 

常夜灯に照らされた中庭は夜空を舞う風花の向こうに静まり返っている。

...よし、行こう...。

今度は口にださずに頭の中で呟いてトイレのドアをそっと開けた。
一階のロビーに続く階段は古い木で出来ていて降りるたびにミシッミシッと小さな音を立てた。
しかしこの寒さだ、物音で誰かが目を醒ましたとしてもわざわざ暖かい布団から出て廊下までは来ないだろう。

ピンクパンサーのテーマを頭の片隅で鳴らしながら博史はそっとそっとロビーまで来た。
玄関の鍵は信一が開けておく段取りになっていた。

ロビーは真っ暗で何も見えない。

懐中電灯を出してつけた。

「ワッ!?」

いきなり人影が浮かび上がりびっくりして博史は声を出してしまった。