第二十一話

 暁園に戻ってから信一と博史はなるべく一緒にいたり話をしたりするのを避けた。

もし何かのはずみでこの話がバレたら今度こそ全て水の泡だ。慎重に計画の日までを過ごすようにと三人は固く誓った。

博史は金庫をちゃんと盗み出せるかどうかを心配するよりも、とにかくワクワクしていた。だって、テレビドラマみたいな旅がこれから始まるのだ。

三人が真っ青に晴れた空の下をずっと向こうに霞む地平線を目指して砂漠の街を歩いていく姿が浮かんだ。
バックミュージックは西遊記のエンディングテーマ「ガンダーラ」。

なんて素敵な旅なんだろう...。


 週末までの何日かの間を、博史は暇さえあればそんな甘い幻想に浸って過ごした。
ずっと前、毎日のように家に帰らず一人で色々なことを想像していたあの頃の薄闇のニオイが懐かしく鼻をかすめた。しかし、あの頃感じていた淋しさはもうなかった。

今、俺には仲間がいる...。

あの頃の学校の友達なんかとは全然違う、一緒に旅をしながら生活を共にする「仲間」だ。
母さんは死んでしまったけど、家族同様の「仲間」を俺はやっと手に入れたんだ。

その「仲間」たちと、そこいらの子供たちには到底経験できないようなドラマチックな踏んだり蹴ったりをしながらどんどん成長していく。

未来を想像しながら希望に満ち足りた気持ちでいつの間にか博史は夢の中にいた。
夢の中で美しい母が博史を優しく抱きしめながら言った。

「さあ、そろそろ旅立ちなさい。あなたを待っている人がたくさんいるわ...。」

「母さん......。」

眠っている博史の目尻から流れ出た涙はいつもの夜泣きの涙とは違ってとても暖かかった。

それは果てしなく長い旅をしてきた旅人が、やっと故郷に戻れた時に流す熱い涙に近いものなのかもしれなかった。