第二十三話

「シーッシーッ!」

慌てて口元に人差し指をたてながら現れた影の主は信一だった。

「し...信ちゃん...。」

「悪ぃー悪ぃ...ちょっと寝ちゃってさ、今起きたんだよぉ...。」

小さな小さな声で言って、ばつの悪そうな顔で頭を掻く信一の姿があまりにも可笑しくて博史は「プッ」と噴き出してしまった。

緊張が一気に緩んだ。

「さぁ鍵が開いたぜ...。」

博史はさっそく外に出て信一を振り返りビシッと軍人のように敬礼した。

「いってまいります!」

「おたっしゃで!」 

信一も敬礼を返したが、その言い方が可笑しくて博史はまた笑った。


 小雪の舞う中庭を博史は走った。もう全然緊張はしていなかった。

用務員室までノンストップでたどり着き、入り口の鍵を開ける。入り口の周りは灯りもなくて、この雪の中人が来そうな気配はまったくなかった。

用務員室の中に入るとテレビの位置はすぐにわかった。由佳が言うにはたしか、その横の衣装ケースの中に洋服に隠して...。
テレビの横に並んで積まれた衣装ケースをふと見ると、洋服で隠すどころか積んであるケースの上に緑色の金庫がチョコンと乗っていた。

なんだ...。泥棒って簡単だな...。
戦利品をぶら下げて用務員室を出る。

雪はもう本格的な降りかたになっていたが、博史は今度はゆっくりと歩きながら男子棟に向かった。

水銀灯に吹雪いた雪が照らされてとても綺麗だ。 

「さようなら暁園...。」

口に出して言いながら博史は用務員室のスペアキーを中庭の隅に向かって放り投げた。

チリンという小さな鈴の音が冬の雪空に消えた。