第三十五話

 青木スポーツのシャッターは案の定下りていたが、脇から車庫を覗くと主人らしき男が奥の緑色のネットの中でゴルフの練習をしている。

「すみませ~ん!」

博史が奥に向かって大きな声で叫んだ。

「はいはーい...」

男が奥から出てきた。

「あの...お店は今日は休みなんですか?」

「あぁ...開けてても客がさっぱり来ないから臨時休業中なんだよ。」

苦笑いする。

「僕たち学校で使う寝袋を買いにきたんだけど、スポーツ用品店を回ってきてここでもう五軒目なんです...。もしあったらなんとか売ってもらえませんか?」

今度は博史が役者になった。

「五軒も回ったのか。そりゃ気の毒に...今開けてやるからちょっと待ってな。」

主人はシャッターを開けるために裏口から中に入った。

「ヒーロー、やるじゃない!」

由佳が博史に拳を握って見せた。

ガラガラガラ シャッターが開いた。

「寝袋かぁ...あったかなぁ?ちょっと待っててな。」

主人はカーテンでしきられた倉庫に入ってガサガサと探していたが、しばらくして埃のかぶった段ボールを持ってきた。箱を開けるとビニール袋に入った寝袋がでてきた。

「いくらだったかな...。」

メーカーのカタログをペラペラめくる。

「あぁ...こいつか...5,800円...。まぁ古いから5,000円でいいや。お金足りるかい?」

「おじさん、三つ買うからもうちょいマケてよ。」

信一がすかさず言う。

「なんだよしっかりしてんなぁ...。」

主人は頭を掻いてから机をバンと叩いて

「しゃーないな、ほな三つで13,000円!これ以上はビタ一文まかりまへん!!」

関西弁になった。

「おっしゃ!おっちゃん男前やっ!!」

信一も関西弁で返して交渉は成立した。