第二十話

 タンザキの金庫を盗むという行為は博史にとって罪悪感がないわけではなかったけれど、彼が由佳にしたことの代償としては安すぎるくらいのことだ。

金庫を盗み出せば次の日にはきっとバレてしまうだろうから土曜の夜金庫を盗み出し、日曜日の朝には受付に外出許可を取ってそこからどこかに逃げるのがいい。

実際にどこに行ってどういう生活をするのかという話まではまだ全然決まってなかったが、由佳の今の状態を思えばとりあえずこの暁園を逃げ出すことが先決であり、どこでどうやって暮らすのかということは逃げおおせて時間も金もある状態になってから三人でゆっくり話しながら決めればいいだろう。

タンザキは用務員のくせに管理がだらしなく、まだスペアキーが失くなったことにも気づいていないようだ。彼が土曜の夕方帰ったら、夜中にスペアキーでそっと忍び込んで金庫を盗みどこかに朝まで隠しておこう。

三人ともちゃんと脱出出来たら電車に乗って遠くに行くんだ。
誰も追いかけて来れないくらいの遠い街へ。

手持ちの金は三人合わせても15000円くらいしかない。タンザキの金庫が手に入らなければかなり生活は苦しくなるだろう。

絶対に失敗は出来ないぞ。

金庫の場所は由佳しか知らないが、さすがに女の由佳にそんな危ない橋を渡らせるわけにはいかない。当然信一か博史がやるしかないのだが、信一は女子棟送りから帰ったばかりで目を付けられている...。となれば適任なのはやはり博史だろう。


「俺がやるよ...。」

博史は自分から言った。
 
「おい、ヒーロー...大丈夫か?」

信一は心配そうな顔だ。

「あぁ...なんとかやってみるよ...。由佳、その金庫はどこにあるの?」

博史が聞いた。

「用務員室の入り口を入るとすぐ左側にテレビがあるんだけど、その横にプラスチックの衣装ケースが何個か積んであって金庫は一番上のケースの中にあるわ。多分洋服かなんかで隠してある緑色の手提げ金庫よ。」

博史は信一が自分のことでヤバイ橋を渡ってくれたことの恩返しをしたかった。

仲間とはそういうもんだと、博史は充分納得していた。

由佳とはまだ今日初めて会ったばかりだったが、すべてうまくいきそうな気がする。
まるでルパンと次元と峰不二子がお宝を盗み出す計画をたてているシーンそのものじゃないか。

主人公が悪の組織なんかに負けるわけはなかった。