第十六話

 朝六時半、いつもなら養護士に起こされてもなかなか起きない二人はぱっちり目を醒ましていた。七時にはもう朝食を済ませて釣り竿とバケツを持って受付に向かった。

 暁園では児童たちに毎月決まった小遣いを渡していて、支給品以外のものは小遣いを貯めて自分で買わせるようにしている。六年生の小遣いは月額1500円。

あまり外に出ない博史の財布の中には今7000円余りが入っている。
信一はいつも学校帰りに寄り道して他の悪ガキたちとインベーダーゲームをやったり駄菓子を買ったりするので、財布にはもう430円しか入っていなかった。

 本来は受付で行き先をノートに書いて「五時までには帰ること」という欄に署名をすれば基本的に外出OKなのだが、ケンカで別棟送りになったばかりの信一を見て受付の事務員は

「ちょっと待ってなさいね、今園長先生に聞いて来るから」

と席を外した。

「チェッ、なんで釣りに行くだけでエンチョーに聞かなきゃなんねーんだよ!」

信一は苛だちを隠せずに下駄箱を思い切り蹴飛ばした。
事務員はなかなか帰って来なかった。

 博史は、もし外出許可が降りなかったらどうしようと気を揉んでいたが、やっとのことで戻ってきた事務員は

「気をつけていくのよ。今は子供の交通事故が多いんだから...。」

と言った。

よしっ、まずは第一関門突破だ!
二人とも胸の中でグッとガッツポーズをとって頷くとゆっくりと受付に背を向けて歩き出した。そして背中に事務員の視線を感じながらそっと正門をくぐり抜け、門を出た途端に「わぁ~っ!」と声を上げながら二人は全速力で走り出した。

大人たちに何かを押し付けられるのはまっぴらだった。

この門を出てしまえば外は自由の街だ。

そしてこの道は日本全国に繋がっていて、俺たちは自由にどこにでも行けるはずなのだ。