第十五話

「ようヒーロー!元気にしてたか?」

ニカッとあいかわらず黄色い歯を見せて笑いながら、ポケットに手を突っ込んだガニ股で信一が廊下を歩いてきた。

「信ちゃん!帰ってきたんだ!!」

博史は目を丸くして驚いたが、すぐに事件のことを思い出し

「...ゴメンよ。俺のせいでこんなことになっちゃってさ...。」

と、またやるせない顔に戻った。

「馬鹿、ヒーローのせいじゃねーよ。ただアイツが生意気だからちょっとシメてやっただけじゃんか」

信一は周りの子にも聞こえるような声で笑いながら威勢よく言った。
結局、信一は今回の件で班長を降ろされ、信一の代わりにヨッシーと呼ばれている六年生の中で一番学校の成績のいい少年が班長になっていた。

「俺ぁもう班長でもなんでもねーからいい子ちゃんにしてる意味もねーし、いつでもリベンジしてやるからなっ!」

信一は中学生のいる部屋のほうにむかってわざわざ大きな声で言った。


 博史はすぐにでも信一に脱走の話を持ち掛けたかったが、今度こそこの前のように誰かに聞かれるわけにはいかなかった。
明日は日曜日だから信一を誘って外に遊びに出て、そこで脱走の打ち合わせをしよう。
園の中ではいつもどおり振る舞って、誰にも勘づかれないようにしなきゃ...。


夕飯のあとテレビの部屋に行こうとした博史に信一が手招きした。

「ん?」

博史が近づくと信一は

「ヒーロー...明日二人で釣りに行かないか?話したいことがあるんだけどここで話すのはもうコリゴリだからさ...。」

と小さな声で笑いながら言った。

「行こう行こう!俺も話したいことが一杯あるんだよ...。」

博史も笑いながら頷いた。

やっぱり考えることは同じだな...。
きっと信ちゃんも脱走の計画を練っているのに違いない。
明日は細かいことまでちゃんと打ち合わせて、早くここを脱出して信ちゃんと二人で自由気ままに生きよう...。