第十一話

信一はよく大人びた言葉や表現を使う、それが博史には頼もしかった。

「知らねーのか...?愛人てことだよ」

「それは...よくわかんないけど......母さんとソイツが抱き合っててそれを見た父さんがバットで殴ったんだ」

「お袋のほうをか?」

「いや...その男を狙ったみたいだけど、外れて母さんの頭にバットが当たって母さんが倒れた...」

「......そんでお袋さん死んじまったの?」

また少し沈黙があって博史は力無く頷いた。

「......でもヒーローはなんで親父まで殺したんだ?悪いのは浮気相手の男じゃんか」

「悪いのはみんな父さんだよ!!」

博史は突然大きな声を出した。

「アイツはホントに酷い奴だったんだ!!」

シーッと人差し指を口に当てて信一が博史を制した。
自分の父親がどんなに悪い奴だったのかを博史は必死になって信一に説明した。

全く働かず、金はみんな酒を呑んで遣ってしまうこと。
自分のお年玉さえみんな持っていかれたこと。
母親や自分に対する暴力。
テレビはイアホンをつけなければ見れなかったこと。
毎日ビクビクしながら生活してたこと......。

話しているうちに博史の瞳からは涙がポロポロこぼれてきて、声もドンドン大きくなった。

「ヒーローっ!おいっ、落ち着けよ!!」

信一が博史の口に手の平を押し当てた。
ふぅ~ふぅ~っと、鼻息を荒げながら博史は黙った。 

「みんなに聞こえちまうよ!」

「...ゴメン......なんか思い出しちゃってさ......」

博史は泣きながら少し笑った。

「...で、どうやって親父たちを殺した......?」

「男と父さんが取っ組み合いしてるトコを包丁で刺した。何度も刺したんだ。背中から包丁を引っこ抜く時に自分の顔や手もいっぱい切ったんだ。もうどっちを刺してるのかもわからなくなってきて、その後のことは何も憶えてないんだ」

「...ヒーローの傷はその時のだったのか......」

信一は感心したような顔で博史を見た。