第十話

 博史は自分がここに来たいきさつを彼にだけは話してもいいと思った。きっと他の子たちはもし自分が殺人犯だということを知ったら会話すらしてくれなくなるだろうが、信一だけはなぜかそうならないような気がしていた。

夜のテレビの時間が終わって就寝前のくつろぎのひと時、博史は全てを話す決意をして
「大事な話があるから」と、信一をロビーに誘った。

 ロビーにはソファーに座って読書ができるスペースがあった。まだ何人かの子供がそこで本やマンガを読んでいたが、真ん中のソファーにいきなりどっかり腰を下ろした信一が、わざとちょっと大きな声で

「じゃあ皆がいなくなったら話をはじめようか」

と言うと、バツの悪そうな顔をしながらそれぞれが本を片手に部屋に戻っていった。信一はそれを見てクスクス笑いながら博史にウインクしたが、博史の目はもう笑ってはいなかった。

ロビーに誰もいなくなったのを見計らって待ち兼ねたように博史が唐突に切り出した。

「信ちゃん......俺さ、実は人殺しなんだ」 

しばらくの沈黙が流れる。

「......はぁっ??」

考えてはみたもののやっぱり言っている意味がまるでわからないというキョトンとした顔で信一は博史の顔を見た。

「いや......ホントなんだ、二人殺した」

「そ...そうか......その話詳しく聞いてもいい?」

「うん、そのためにわざわざここに来たんだ」信一の目をしっかり見据えて博史が言った。

「...で、誰を殺ったんだ?」小さな声で信一が聞いた。

「父さんと知らない男...」

「じ...自分の親父を殺したのか......?」信一は少し声をうわずらせた。

「父さんが母さんを殺したんだ...知らない男は母さんの......」そこまで言って博史は黙り込んだ。

「......コレか?」信一が親指を立てた。

「コレって...?」博史にはその意味がわからなかった。