第十二話

「俺は捨て子でさ、親父もお袋もどんな顔だか知らねーんだ。今まで最悪に恵まれてないと思ってたけど、ヒーローに比べたらまだマシかもな......そんな親父だったら俺もすぐ殺してたかもしれねぇよ。ヒーローが悪いわけじゃない」

よかったぁ......やっぱり信ちゃんはわかってくれた。
博史は安堵のため息をついた。

「信ちゃんだけにはホントのこと話したかったんだ。だけどこのことは誰にも言わないで......知られたみんなに嫌われちゃうから」

「...ああ、誰にも言わないよ。もし誰かにバレてイジメられたら俺がみんなぶっ飛ばしてやる」

信一は握り拳を作って反対の手の平をパーンと叩いた。

その時ロビーから二階に続く階段をトントントンと慌てて駆け登る足音がした。二人は急いで階段を下から覗き込んだが、チラっと後ろ姿が見えただけでそれが誰なのかまではわからなかった。
二人は顔を見合わせたが、まさか大騒ぎして今の人物が誰だったのかを探し回るわけにもいかない。

信一は落ち込んだ顔の博史をなぐさめようと

「...大丈夫、もし誰かにこの話をした奴がいたら俺がぶっ殺してやるから」

と博史の肩を叩いたが、博史は気が気ではなかった。
もしこのことが皆に知れてしまったら、もうとてもじゃないけど暁園にはいられない。

どうしよう...

やっと皆とも仲良くなれて楽しくテレビも見られるようになったのに......さらにしょげ返った顔で俯いた。

「多分そいつ誰にも言わねーよ。俺がぶっ飛ばすって言ったのも聞いてたはずだし......それに、ここにいる奴らはみんななんだかんだ親には苦労してるからさ......」

信一はそう言いながらポケットに手を突っ込んでのらくろ風船ガムを取り出すと、包みを開け中のガムを割って半分を博史にホイッと投げた。

ピンク色の小さなガムはとっても甘かった。


舌先で風船を作ろうと何度も挑戦するが、ガムが小さすぎてなかなかできない信一に博史は

「なぁ信ちゃん、もしこれがみんなにバレちゃったらさ...二人でここを脱走しない?」

と言った。

やっとのことで完成した信一の小さな風船がパチンと音を立てて割れた。