第三十二話

「...45...46...47......。」

「疲れたぁ......。まだまだあるわよ。」

途中で数え疲れて由佳は博史に勘定を任した。

「...83...84...85っと!」

数え終わった博史は最後の一枚を空中に投げた。

「八十五万円っ!!」

「ウッヒャ~俺達大金持ちだ!やったあ~!!」

と信一がはしゃいで金を両手につかみ空中にばらまいた。

「コラッ!なくなったらどうすんのよ!!安心はできないわよ。このくらいのお金なんて無駄遣いしたらすぐなくなっちゃうんだから...。」

由佳は急いですぐに紙幣を拾い集めたが、全部拾い終わると

「でも......」

と言ってニヤリと笑い

「やったあ~!!」

と叫んでまた空中に放り投げた。

一万円札は映画のワンシーンのようにスローモーションでヒラヒラと宙を舞った。

博史は大金を手に入れたことよりも、またひとつ自分の人生が物語性を帯びたことに満足していた。


 三人は寝袋と食糧などを買うために強い風の吹く中、駅前の商店街まで歩いた。

大金を持って歩くのは危険なため中から五万円だけ抜いて由佳が持ち、残りはプレハブの床下にタオルに巻いて隠してきた。

五万円とはいえ、昭和五十年代の小学生の彼らにとってはあまりにも大金であり、買い物の時に財布を開けて誰か大人に中身を見られたら、どこで手に入れた金なのかと根掘り葉掘り聞かれるのがオチだ。

財布には二万円だけを入れ、あとは折ったハンカチの中に小さくして隠しておいて、財布が空になったら補充しよう。

二万円も大金には違いないが、寝袋はそんなに安くないだろうからしかたないかな...。