第三十話

駅前は閑散としていた。

夏場は海水浴客で賑わうこの町も冬になると客足はパッタリ途絶えてしまい、駅前の商店街は三分の一ほどしかシャッターを開けていない。

商店街を南に歩いて二~三分も行けば海に出るのだが、その通りにもほとんど人の気配はない。海が近いせいかこのあたりだけは雪も降らなかったようで道路脇に雪はなかった。


 三人は金庫を開けるために人気ない海のほうに向かって歩いた。雪の降らない町だが、それでも海から吹いてくる強い風は身体の芯を凍らすほどに冷たい。

「うぁ寒みぃ~っ......。」

信一は鼻水をすすった。

海岸はコンクリートの防波堤で整備されていて、左手には車の一台もない未舗装の広い駐車場が海風に砂を巻き上げている。

駐車場の奥の空き地に枯れたススキに隠れるようにして警備員室かなにかに使っていたようなプレハブ小屋があるのを由佳が見つけた。

そのプレハブはもう長年使っていないらしく錆だらけで窓ガラスは破れていた。

「あそこ入れるんじゃない?」

由佳が言って三人がプレハブに近づいてみると案の定入口の扉に鍵は掛かっていなかった。

「とりあえず中に入ろう。」

三人は中に入った。

強い海風からは逃れたものの破れた窓ガラスからは時おりヒュ~ッと冷たい風が入ってくる。

信一と博史は床に敷いてある埃まみれのコンパネを「せーのっ」と起こして窓に立てかけ、外にあったブロックを押さえにしてなんとか風を防いだ。

「あとでガムテープで周りを塞げば風は大丈夫そうだね。」

博史が言った。

床は埃だらけでガラス片が散乱していたが、床さえ掃除すれば三人が寝るのにもまずまず困らない広さだ。中にあった壊れたパイロンやら古い机、椅子などを全部外に運び出し部屋を空にすると、ほぼ六畳くらいの立派な部屋になった。

「俺達ってホントにツイてるよな......。もう家が見つかったよ。」

信一が笑った。

二人もニコニコと笑った。

由佳はバッグから早速金庫を取り出し

「さて、これどうやって壊そうかしら......。」

と考え込んだ。


「こんなの外でコンクリに投げ付けりゃすぐぶっこわれるよ。」

信一が金庫を持ってドアを開けるとまた強い浜風が吹き込んだ。


「...信ちゃん、この風の中で壊したら金がみんなどっかへ飛んでっちゃうよ...。」

博史は鼻の頭の傷を撫でた。

「お金がないと寝袋も買えないし、困ったわね......。」

また三人は頭を抱えた。