第二十九話

「終点に着いたらそれからどうするの?」

博史が二人に聞いた。

「とりあえず早く金庫開けてどっかで旨いモン食おうぜ。朝めしあんまり食えなかったからもう俺腹ペコだよ。」

信一が金庫をがさがさ振った。

「これから旅をするのにあまり無駄遣いはできないわ。泊まるのにもお金かかるはずだし...。」

由佳は金庫を信一からもぎ取り隠すようにバッグに入れた。

「泊まるのはどうしよう...。旅館とかって子供だけでも泊めてくれるのかな...。」

博史が心配そうな顔をした。

「うーん...。」

三人とも黙ってしまった。


しばらく考えて、由佳がひらめいた。

「...なら誰も住んでいない空き家を探すっていうのはどう?お金もかからないし...。」

少し遠い目になって続ける。

「昔あの辺によく家族で海水浴に行ったのよ...。確か海の近くに使っていない船の小屋とか、潰れたパチンコ屋とか住めそうなのが色々あったような気がするのよね...。」

「...でもストーブもコタツもないからめちゃ寒いぜ?寝る時の布団はどうすんだよ。」

信一が気乗りしない顔で言い、三人はまた黙り込んだ。
しかし、三人寄ればなんとやら 次は博史がひらめいた。

「そうだ!じゃあさ、寝袋を買おうよ。あれなら持ち運べてどこでも寝れるし、冬山でも全然寒くないってテレビで言ってたよ。」

「おおぉ......。」
「なるほどね......。」

二人が感心した声を出し、博史はちょっと得意げな表情で頬の傷をポリポリと掻いた。

 ガタンゴトンと電車は揺れながら長いトンネルに入った。

旅館よりホテルより寝袋に包まって廃屋や野原で眠るほうがよほど本物の旅らしい。自分達はもう本物の旅人なのだ。

子供たちだけで旅をしながら暮らすなんていう、ブラウン管の向こう側の世界が今現実としてここにあった。

ポォーっという警笛が鳴り響き電車がトンネルの出口を抜けると、右手の窓にキラキラと光る冬の海が見えてきた。

「うわぁ綺麗...。」

呟いて窓の外を見た由佳と、眩しそうに手を額にかざした信一の横顔を見て、博史は自分がこの物語の重要人物に選ばれたことを心から幸せに思った。

間もなく列車は終点の海の町にゆっくりと停車した。