第十八話

 トントントンと軽やかに鉄骨階段を昇る音が聞こえた。

「......来たぞっ」

信一はニカッと笑った。

佐藤由佳は背が高く長い黒髪の少女で、前髪が真っ直ぐに切ってあって博史と同じ六年生にしては随分大人びて見えた。
彼女はストーブの前にしゃがんでいる信一に気づき、軽く手を挙げると二人のほうに向かって歩いてきた。

博史は暁園に入る前までは同級の女の子と話すこともあったが、入園してからはほとんど外出もしなかったし、学校にも通っていなかったので、久しぶりに女の子を間近に見てドギマギした。

「ねぇ...あなたがヒーロー?」

近づくなりいきなり由佳にまっすぐ目を見て話しかけられた博史は顔が真っ赤になった。

「う、うん...。」

「傷、カッコイイじゃん。」

言われて更に赤くなった。

「ヒーロー照れんなよ。可愛いだろ?こいつが由佳だよ。」

信一が博史の背中をバンと強く叩いて笑った。

「あ...タ...タンザキに...なんか...あれ...イタズラ...。」

博史は恥ずかしさをごまかすために話題を変えたくていきなり話を切りだそうとしたが、どもってしまい最後はむにゃむにゃと聞こえないような小さな声になってしまった。

由佳は信一の顔をキッと睨んで

「あなた、話したの?」

と強い口調で尋ねた。

「は...話してねーよ!お前に直接聞けって言っただけだって...。」

信一が慌てて言った。

「そう、ならいいけど...。」

由佳はちょっと安心した優しい顔になった。

その時桟敷に冷たい風が吹きこんできて由佳の長い髪は揺れ、冬の遠い陽射しが逆光になって彼女の着ている白いセーターの毛糸の毛先を光らせた。

「寒い...。」

由佳もストーブの上に手をかざし三人はストーブを囲んで丸く並んでしゃがんだ。

「タンザキの奴...あいつホントにどうしようもない馬鹿オヤジなんだ...。」

由佳は寒さに赤くなった手をストーブの上で擦りながら話しはじめた。

「あいつパパの同級生だったの。私のパパとママは交通事故で一緒に死んじゃってね。他に親戚が誰もいないから私はあいつの紹介で暁園に入ったの...。」

「由佳の母ちゃん女優だったんだぜ。事故のことテレビのニュースでも流れたんだってさ。」

信一が横から口を出した。

「信一!今話してるんだからちょっと黙っててよ!」

由佳はまた信一を睨んだ。

「へいへ~い...。」

信一はつまらなそうに口を尖らせて黙った。

「でね...タンザキは家族がいない私の保護者ってことになったんだけど、アイツそれを恩に着せて私にいやらしいことをするようになったのよ。」

「ひどい...。」