第十四話

 博史との約束を守るために中学生にまでケンカを売って女子棟に飛ばされた信ちゃん。
彼こそ「傷だらけのヒーロー」そのものだった。彼はきっと博史にとって本物の仲間だ。それは間違いない。

もし逆の立場なら信ちゃんのために自分も危険を冒すかもしれない。
しかし、じゃあいつも一緒に遊ぶマー君やヒデキのためにそれと同じことができるだろうか...。

...いや、きっとできない。

彼らだって信ちゃんのように自分のために体を張るような真似はしないだろう。
百合子先生はみんなを仲間だと思えと言ったけど、そんなに簡単に「仲間」だなんて思えるわけはなかった。

博史の頭の中で「仲間」というのは、ルパン三世と次元大介や石川五ェ門みたいな関係でなければならなかった。自分が主役の物語りを一人一人が生きている...。そしてそのドラマの中で「仲間」と「脇役たち」では役割が全く違うのだ。

自分の「人生」という物語りを素晴らしいストーリーにするために、そこにははっきりとした線引きをしなければならないはずだということを博史は漠然ながら強く感じていた。
しかし幼さ故にその思考はまだまとまらず、だから大人たちから諭されるありきたりな言葉には得体の知れない一抹の憤りを感じていた。


 結局信一は一週間以上男子棟には戻ってこなかった。

女子棟の中で男の信一が自由に部屋を出入りできるはずはないから、きっとずっと一人ぼっちでいるのに違いない。
博史はいつもの友達たちと遊んではいたが、信一のことを考えると何をやっても面白くなかった。

五~六年生の中では信一の話は禁句らしく、話題にさえ上らない。
それと同じに博史の事件のことについても気を遣ってか大っぴらには話題にならなかった。

しかし、博史のいないところで皆が噂話をしているのは明らかだった。よく遊ぶ二人もなんとなく腰が引けたような付き合い方をしているのがわかって、博史はいたたまれない気持ちになった。

やっぱり本当の「仲間」は信ちゃんだけだ...。
博史は本気で脱走計画を実行しようと考えていた。信一と一緒ならどこに逃げてもうまくいきそうだった。

...信ちゃんがこっちに戻ったらすぐに相談しよう。

べつに園から外出を禁じられているわけでもなかったし、風呂や食事にテレビまでついているこの環境は捨てがたいが、それでもなぜかここを脱走しないと本当の自由は手に入れられないような気がしていた。