第九話

「おいヒーロー!見ろよ外が真っ白だぞ!!」

信一がロビーのカーテンを開け博史に向かって大声で叫んだ。

「うぁ、ホントだぁすごい......」

博史が信一に返す。
他の子たちも外の雪景色を見て感嘆の声をあげた。


暁園に入園してから三ヶ月、博史は周りの子たちにすっかり溶け込んでいた。

夜中に泣く癖だけはまだあったが、普段は皆に交じって普通に遊べたし、テレビの時間には漫才やコントに大笑いしたりもできるようになった。
特に班長の野上信一は博史にとってすでに親友と言えるような友達になっていた。

博史は信一を「信ちゃん」と呼び、信一は博史を「ヒーロー」と呼んだ。

このニックネームは 「傷だらけのヒーロー」という人気ドラマのタイトルと、博史の「ヒロ」とをかけたものであったが、実際顔や手にたくさん傷跡のある博史にはあまりに直接過ぎるネーミングではないかと園の養護士たちは少し心配した。
しかしマンガやテレビのヒーローものが大好きな博史は、ちょっと照れ臭いけどホントは嬉しくて仕方なかった。

家ではずっと父を気にしてイヤホンでしかテレビの音を聴けなかったが、ここでは皆で笑いながら大きな音で楽しめる。母がいないことを除けば何不自由ない暮らしだった。

 信一は産まれたばかりの頃に両親に捨てられたらしい。
ごみ箱の中で泣いているところを近くに住む若い夫婦に発見され、その後は色々な施設をたらい回しにされて七歳の時に暁園に来た。

両親の愛情を全く知らない信一は、普段はとても優しくて頼りになる少年だったが、一度暴れ出したら手のつけられない狂暴なところがあった。

暁園の養護師たちは、そんな彼になんとか協調性と責任感を植え付けようと、敢えて六年の班長にして世話を焼いたが、それでもカッとなることがあるたびに信一はとことん相手をやっつけた。

おかげで年長の者でさえも信一にだけは気を遣うような番長じみた立場になり、同学年や年下の子たちは怖がってあまり近づかない。

そんな状態にさらに苛立つ信一だったが、博史とだけはなぜかやけにウマが合い、博史が来てからというもの信一は一度も喧嘩や揉め事を起こさなかった。