第八話

 夜になると子供たちは三人づつ部屋に別れて寝る。
寝る前のこの時間は学校での出来事や一日の不平不満をルームメイトと共有できる貴重な時間なのだが、輪の中に入っていけない博史にとってそれは苦痛以外の何ものでもなかった。

自分は学校にも行っていないし、皆と話が合うわけがない。 
いつまでも一人で部屋の隅に座り黙って目をつむっていた。


 博史は自分が父と知らない男を殺した痛手からはもうとっくに立ち直っていた。
しかし、母が死んだ事実を受け入れることだけは難しく夜ごと布団の中で啜り泣いた。

大好きだった母さんはもう、この世にはいない...。
それなのに親戚もおばあちゃんも誰も自分を引き取ってはくれなかった。

でも、そんなことはどうだっていい。
はじめから母さん以外に愛されてるなんて思ってもいない。
だから恨んだりなんか全然しない。

ああ......母さんさえ死なずにいてくれたら。

家が貧乏でも、父さんが酒乱でもなんでもいい...。
母さんが戻ってきてくれるなら...。

たった一人の自分の味方。
たった一人自分が愛していた人。

......どうしてあんなひどい事が自分のところにだけ起こったんだろう。
自分はなんて悲しい境遇なんだ。

きっとマンガの主人公たちですらこんなにひどくはなかっただろう...。

ひっくひっくと喉を鳴らせてひとしきり泣いた後、疲れて眠りに落ちる間際に博史の耳に必ず入ってくるのは他の子供たちの同じような啜り泣きだった。

皆両親も身寄りもない子供たちであり、普段は明るく振る舞っていても実はそれぞれに堪えきれない涙があったのだ。

頑なに閉ざされていた心の扉が、自らが毎晩流す涙と周りの子たちが流す涙の相乗効果によって少しずつ開いてゆくのを博史は感じはじめていた。