第七話

 腕や顔にたくさん縫い傷のある中山博史を見て、暁園の子供たちはすごいヤツが入ってきたと噂していたが、まさか彼があの事件の当事者だとは誰も気づいていないようだった。

 暁園は孤児を養護するための小さな施設で、子供たちは昼間普通の学校に通い、学校が終わると暁園に帰ってきて寝食を共にする。男子棟には小学六年の博史と同学年の子も五人いた。

世間を騒がせた殺人事件の当事者が入園するなどということは暁園にとってもかつてないケースであり、児童相談所との話合いで、トラウマがある程度回復するまでは博史を小学校に通わせることを避けることが決まっている。

実際転入先は隣町とはいえ事件が起こったのと同じ地域の小学校であり、今傷だらけの博史が転入すればきっと事件のこともすぐにわかってしまうだろう。

イジメの問題やマスコミからの逃避の問題も考えれば、博史を小学校に通わせるのは早すぎる。
暁園側としても、博史は一年留年させてでもゆっくり精神的なケアをしたほうが良いだろうと判断した。


 入園早々六年生男子の班長である野上信一が博史にさっそく話しかけてきた。

「よう中山、ヨロシクな!」

ニコニコしながら博史の肩を叩き

「俺は野上信一ってんだ。ここの六年の班長やってるからわかんないことはなんでも聞いてくれよ!」

ニカッと黄色い歯を見せて笑いながら信一は胸を張った。

下を向いているところにいきなり後ろから肩を叩かれたので、博史はビクッとしてちらりと信一を見たが、その後はまたずっと一人で黙って俯いていた。

友達なんて作る気分じゃなかった。

「チェッ......」

と不満げな顔をして信一は博史のそばを離れた。

信一に対する反応を興味津々で見ていたほかの子たちも、これがきっかけで博史に話しかけづらくなってしまい、それから一週間ほど博史はほとんど誰とも話をしないで過ごした。