第六話

 何もない真っ白な室内は、まるであの夜母が着ていたドレスのような色であり、ぼぅっと壁を眺めていると、いつしか壁の上のほうからどろどろした真っ赤な血が溢れて出してきて、一面真っ赤になるまで止まらない。そして血はどんどんどんどん溢れてきて、博史が息を飲んでいるうちに目の前まで全てが真っ赤に染まるのだ。

「ひゃぁぁぁあ!」

博史は時折狂ったように獣じみた奇声をあげた。看護婦たちは博史に優しくしてくれたが、博史にはその優しさを受け止めるだけの余裕はまだなかった。食べ物を出されてもほとんど喉を通らず、どんどん衰弱していく幼い姿は彼女たちの目にあまりにも哀れだった。


 博史には両親以外に身を寄せる場所がなかった。

父方の祖父母はすでに亡くなっていたし、父の弟が生きてはいるらしいものの、彼は住居を転々としている風来坊であり、現在どこにいるのかすらわからない。母方には祖母と叔母がいたが、祖母は重い肺病を患っていて叔母が一人で面倒を看ている。

 警察側から身寄りがないのでなんとか博史の身元引き受け人をしてもらえないかと叔母に連絡をしたものの、彼女自身もひどく病弱であり、祖母が事件をテレビで知って激しくショックを受け、具合を崩していることもあって引き受けてはもらえなかった。

 この事件はまだ幼い博史が目の前で母の死を目撃して、激しい錯乱状態の中で発作的に二人を刺したものであり、家庭環境を考えても元々素行の悪くない博史に非を問えるものではないと警察は判断した。

 精神的ダメージも非常に大きく、更にマスコミなどが彼のトラウマをほじくり返すような取材をする危険性もあるため、博史の傷がある程度癒えるまでは警察病院の病室に隔離し、一切の面会や取材をさせないことを決めた。
しかしどちらにせよ傷が治り退院したあと身寄りがなければ孤児院のような施設に入れるしかなった。

 それから約四ヶ月間の病院生活を送り、食事も取れるようになって身体の傷が完治した博史は、隣町にある「暁園」という施設に送られることになった。